夫婦関係のカウンセリング

千葉カウンセリングルーム

性別分業と夫婦関係に求めるもの

男性は仕事、女性は家事・育児は社会の変化によりつくられた

柏木先生(柏木恵子・大野祥子・平山順子『家族心理学への招待[第2版]』ミネルヴァ書房 2009年)によると、
”男性は仕事、女性は家事・育児”という性別役割分業は世界的に一般的なことでもなく、
日本でもこの80年くらいのことだそうです。

経緯としては、日本では高度経済成長期に、
地方から家を継がない長男以外の若者(当時はきょうだいが多かった)が「金の卵」と言われ上京し、
恋愛結婚をして核家族が生まれました。

そしてサラリーマンの誕生と都市化により、家業と仕事が分離します。

当時のサラリーマンが過酷な勤務(企業戦士)に専念できるように性別で分業する(この頃は女性の活躍する職業が少なかった)ようになり、
国も政策(配偶者控除・配偶者特別控除などの税制、第3号被保険者などの年金)で専業主婦を優遇しました。

このように女性は家庭に入り、家庭の全責任を負う立場になりました。
(あっさりした説明ですいません)
このようになるまでは、男女が臨機応変に仕事・家事・育児をしていたそうです。

”男性は仕事、女性は家事・育児”は日本において普遍的なことではなく、社会の変化により生まれたのです。
社会の変化により家族は変化してきたのです。

逆に言えば、社会の変化に家族は適応する必要があります。

社会の変化を見て見ぬふりをして過去の価値観にしがみついていると、
家族(夫婦)のストレスが高まるのではないでしょうか。

夫婦関係に求めるもの

1960年代まで日本では男女ともに生涯未婚率は1~2%、つまり98%~99%の人が結婚する社会でした。

男性は母親の代わりにお世話をしてくれる妻が必要で、女性は父親の代わりにお金を稼いでくる夫が必要でした。

男女にとって結婚は生きていくために必要な制度であり、手続きだったのだそうです。

現在はどうかというと、お金で外注できる家事もありますし、便利な電化製品もあります。
機械化によって男性の肉体労働は減り、女性が活躍する仕事も増えました。

一人で生きていける社会になってきましたので、結婚の必要性が薄れてきています。

では結婚に何を求めるのでしょうか。

内閣府の『男女協働参画白書 令和4年版』を引用します。

結婚相手に求めること(理想)について、独身の男女は、20~30代、40~60代とも「価値観が近い」「一緒にいて落ち着ける・気を遣わない」「一緒にいて楽しい」が5~7割となっている。既婚の男女も、結婚相手に求めたこと(理想)について、20~30代、40~60代ともに「価値観が近い」「一緒にいて落ち着ける・気を遣わない」「一緒にいて楽しい」が5~7割となっている一方、現在結婚相手に求めること(現実)については、同項目で割合が、4~6割と減る。
 独身の男女間で大きく差があり、女性の方が高いものは、「満足いく経済力・年収」(20~30代:女性32.6%、男性5.8%、40~60代:女性39.3%、男性4.7%)、「正規雇用である」(20~30代:女性15.1%、男性4.4%、40~60代:女性14.9%、男性0.7%)等で、既婚の男女間の理想・現実ともに同傾向であるが、結婚後、現在結婚相手に求めること(現実)は、これに「家事力・家事分担できる」が加わる。

内閣府『男女共同参画白書』2022年 より

この調査によると結婚相手に求めることとして、
「価値観が近い」「一緒にいて落ち着ける・気を遣わない」「一緒にいて楽しい」の3つが、
男女ともに未婚者も既婚者も(理想と結婚後の現実ともに)、経済力・容姿・親戚付き合いなどより高いです。
(「依然として一定程度の女性が、結婚は経済的安定の手段と考えていることが窺える。」との記載もあります)

この部分が満たされないのならば(そして一人で生きていけるならば)、無理に結婚する必要はないわけです。

そして結婚は、(恋愛結婚であれば)お互いによく理解している、うまくやっていける、と思ってするものです。
もともとは他人なので、性格も価値観も違って当たり前なのですが、相手に過度に期待しがちです。

期待は大きければ大きいほど、かなわなかった際の悲しみ・つらさ・寂しさも大きくなります。
そしてこれらの感情は怒りになります。

結婚には、仕事のような明確なルールや上下関係はありません。
全てを夫婦でゼロから作っていくことになります。
「夫婦だから言わなくても分かる」では成り立ちません。

自分達の夫婦像を作っていくためにも、期待がかなわなかった際の葛藤を解消するためにも、コミュニケーションが必要になります。

結婚前の魅力が欠点になる(欠点に見えてしまう)

結婚前には、自分とは異なる面を持っている人に魅力を感じることがあります。
欠点が魅力を引き立たせることもあるでしょう。

たとえば、人間関係・コミュニケーションの不器用なところが、真面目さ・誠実さを際立たせて良い人という評価になる、などです。

ですが、結婚して生活を共にすると、とくに子どもが生まれると共同作業が劇的に増えます。

子どもは大人の都合で待ってはくれませんので、
夫婦はお互いの欠点をフォローしにくくなり、欠点は欠点として浮き出ます。

子どもの年齢にあわせて、有限なお金と時間とエネルギーを何に注ぐのか、何を優先するのか、価値観が明確になります。

魅力として感じていた自分とは異なる面は、価値観や方法の違いとして認識することになります。

たとえば、口下手で人間関係は不器用だけど真面目で誠実な人、が
口下手で何を考えているか分からない人、交渉事を任せられない人、
という評価になってしまいます。

結婚生活の中で、相手に対して、価値観が違う、こんなはずじゃなかった、と思うことは誰しも一度や二度はあるでしょうが、
現実には相手は結婚前と変わっていない、ということがあります。

この点は客観的に振り返れないと、相手に対して被害感を募らせることになってしまいます。

夫婦のコミュニケーション

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正しさで争わない。違いを受け入れる

ブリーフセラピーのコミュニケーション理論の一つに対称(相称)的コミュニケーションと相補的コミュニケーションという考え方があります。

対称的コミュニケーションはお互いが同じ行動をとりあいます。お互いが優位に立とうと争い、エスカレートして二人の関係は傷つきます。

相補的コミュニケーションはお互いが異なった行動をとってバランスをとる、補完しあうコミュニケーションです。
理想の夫婦のように思えますが、この関係が固定化しすぎると、変化に対応できなくなったり、劣位になった側に問題がおきます。

理屈っぽくなりましたが、
対称的コミュニケーションでお互いが正しさ主張し、非難しあっていると、夫婦関係はストレスに満ちたものになります。

また相補的コミュニケーションは大切ですが、一方がずっと引き立て役で主体性を発揮できないのでは、独身の方が幸せだった、となってしまうでしょう。

対称的コミュニケーションも全て悪いわけではなく、時には夫婦がお互いに競い合うようなことも必要です。

お互いの得意・不得意を踏まえて、相補的コミュニケーションで片方の得意な部分で力を発揮してもらうことも独身にはない夫婦の利点でしょう。

育児・家事・仕事・近所付き合い・老親の介護など、やることは山ほどあって忙しいとは思いますが、
時おり夫婦のコミュニケーションを振り返っていただけると良いと思います。

解決の努力が問題を維持してしまう

問題を解決しようする努力が問題を維持することを
ブリーフセラピーの用語で偽解決(ぎかいけつ・にせかいけつ)と言います。

たとえば夫婦関係ですと、
妻が夫に家事の更なる取り組みを求めて「〇〇さん家の旦那さん、休みの日は毎日ご飯を作ってるんだって」と言い、
言われた夫は「あぁ、また〇〇さん家の旦那さんは、か。もう、うんざりだよ。余計やる気なくなるよ。とりあえず、あいづちだけしとこ」と口に出さないで思っている、
というぐあいです。

妻の努力が、かえって問題を維持しています。
これは夫婦関係だけでなく、親子関係にも(家族以外にもですが)同じことがありえます。


とくに不登校・ひきこもりの子どもを動かそうとして、逆効果になってしまうことは珍しくありません。
このようなコミュニケーションの悪循環も、時おり意識を向けたいものです。

カップルダンス

原典を読んでいない孫引きで申し訳ありませんが、
中釜洋子・野末武義・布柴靖枝・無藤清子編(2019)『家族心理学〔第二版〕ー家族システムの発達と臨床的援助』有斐閣ブックスに、
ミデルバーグ(Middelberg)が指摘したカップル・ダンスという夫婦の悪循環のパターンが載っています。

夫婦の関係で何らかの葛藤や緊張状態がみられるとき、いつも同じようなパターンをたどるとのことです。

多くの夫婦で、言われてみれば…と参考になると思いますので、載せます。

衝突のダンス(the dance of conflict)
お互いに自分こそ被害者であり、変わるべきは相手の方だと思っている。お互いに共感性が低く、自分の言動が相手を傷つけていることには気づきにくい。
距離のダンス(the dance of distance)
自己愛的に相手の関係から引きこもる。いわば冷戦状態になるが、心の中ではパートナーへの怒りを感じている。お互いに、相手を傷つけること、自分が傷つけられることを恐れている。
追跡者/回避者のダンス(the pursuer/avoider dance)
一方が感情的に他方を追い求め、他方は知性化して回避するパターン。追えば追うほど逃げる、逃げれば逃げるほど追う、という悪循環になる。
過剰責任/過小責任のダンス(the overresponsible/underresponsible dance)
過保護な親と依存的な子どもの関係にたとえられる。過剰責任者は自分自身の依存欲求を否認し、過小責任者に投影している。過少責任者は何らかの症状や問題がある人であることが多いが、有能になることや自己充足を恐れ、2人は不安定ながらも二極分化した関係を保ち続ける。
過少責任者の機能レベルを上げるだけでなく、過剰責任者の内的問題も扱う必要がある。
三角関係化(the dance of triangulation)
夫婦の葛藤が2人の関係の中だけでは処理しきれないで、第三者を巻き込むパターン。巻き込まれる第三者には、子ども、源家族(実家)、浮気相手、仕事などが多い。

カップルダンスは誰しもが多かれ少なかれ心当たりがあると思いますが、
「この人(相手)は、私たちは、いつもこうだ(こうなってしまう)」と思った時は、
このダンスを脱するために、違ったコミュニケーションを意識できると良いのではないでしょうか。

実家についての悩み

源家族(実家)からの自己分化

家族療法の流派の一つ、多世代家族療法に自己分化という概念があります。

源家族(実家)の影響から離れて、自律的でいられる程度のことで、理性と感情のバランスが求められます。

源家族(実家)から独立し、源家族の問題を繰り返さない人は自己分化度が高い、ということになります。

自己分化度が低い場合、源家族(実家)に巻き込まれないように、実家との関係を断つ方もいらっしゃいます。
ですが、離れただけでは源家族との葛藤は解決しません。


自己分化度が低い家族で育って、本人の自己分化度も低いと、パートナーと融合(自己分化の反対)関係になってしまうこともあります。

実家との関係から逃げるように結婚する方もいらっしゃいますが、結婚後に苦労することも多いです。

実家との関係

実家との関係の悩みは多いですが、上記の自己分化の概念は役立つと思います。

当たり前ですが、実家と適切な距離感で付き合える(自己分化度が高い)と良いです。


ですが、自己分化度が低いと実家を優先しすぎたり、
または関係を断って子育ての支援を受けられないといったこともあります。

また、実家との関係だけでなく、実家への対応で夫婦の意見が異なって、夫婦ケンカにもなるでしょう。

不安定な実家に巻き込まれないように適切な距離感を意識しても、
実家の方が精神疾患や依存症だったりで、望む関係性が持てないこともあります。

実家との関係は、実家の状況次第で本当に悩みます。
実家の問題も乗り越えるためには、夫婦間のコミュニケーションが必要になります。

千葉カウンセリングルームの夫婦カウンセリング

夫婦カウンセリングが有効な時

野末先生(中釜洋子・野末武義・布柴靖枝・無藤清子編『家族心理学〔第二版〕ー家族システムの発達と臨床的援助』有斐閣ブックス 2019年)によると、
夫婦の問題を自分たちだけで解決できなくっている場合、そこには必ずコミュニケーションの問題が見られる、
とあります。
長くなりますが、大事な内容なので引用します。

多くの夫婦に共通する問題は、①自分の気持ちや考えをパートナーに伝える時の問題、②パートナーが表現したことを理解し受け止め理解する時の問題、の2つに大別される。

 伝えるときの問題としてまずあげられるのは、自分の気持ちや考えを言葉や態度で適切に表現しないということである。(中略)「私はこうしてほしくない」とアイ・メッセージ(I messeage)で言わず、「どうしてそんなことするの!!」と相手を激しく責めたり、本当は寂しいのに激しい怒りとして表現する場合などである。

 受け止め理解するときの問題としては、話を最後まで聴かないで決めつける、話の内容だけ理解してパートナーの気持ちを理解しようとしない、(中略)自分の認識の正しさのみ主張してパートナーの認識を理解しようとしない、パートナーの発言をすべて自分への非難と受け取る、などである。

中釜洋子・野末武義・布柴靖枝・無藤清子編『家族心理学〔第二版〕ー家族システムの発達と臨床的援助』有斐閣ブックス 2019年より

受け止め理解する時の問題は、世の男性は耳が痛いのではないでしょうか。

野末先生のお考えは本当にもっともと思います。
コミュニケーションの問題があると、自分たちだけで解決できない状態になってしまいます。

このような際には、夫婦で問題に向き合い話し合う場として、夫婦カウンセリングが有効になります。

そして夫婦で問題に向き合い、自分達で答えを出して課題を乗り越えていくことで、夫婦は更に親密性を増していくのだと思います。

夫婦カウンセリングの実際

夫婦(カップル)関係についての相談では、
お一人で来室される方もいらっしゃいますし、お二人で利用される方もいらっしゃいます。

また当相談室は未婚のカップルでご利用される方も多いです。
何か問題が起きて相談にいらっしゃるのですが、
問題を見て見ぬふりをせずに入籍前にしっかりと話し合うことは、とても大切なことだと思います。

実際のカウンセリングですが、お一人の来室の時には、一般的なカウンセリングのイメージと同様です。
パートナーの問題について話す方が多いですが、相手を非難してばかりでは解決しません。
パートナーの問題を踏まえた上で、どうなりたいか、どうするか、と進みます。

お二人でご利用の際には、
片方が改善の意欲があまりない時には家庭訪問になることもあります。

また二人で来室された際にも、夫婦関係で行きづまっての相談なので、
二人の雰囲気は重苦しい状態で始まります。

そして大体は、片方は関係を改善したく、
もう片方は疲れきっていたり、怒っていたり、呆れていたり、諦めていたりして、あまり改善の意欲がない(意欲をみせない)ことが多いです。

つまり、片方は改善したい⇔片方はもうどうでもいい・離れたい、
という状況で始まるのですが、
この状況のまま終わってはカウンセリングを受けた意味がありません。

ですので、まずはカウンセラーは双方から関係を改善したい、という思いを引き出すことに注力します。

実際には意欲が下がっている方に、
今日はどのようなことを期待してお越しいただきましたか、
と質問します。

そうすると、
相手がしつこいので仕方なく来た。もう今更どうでもいい、
などの返答をしてくださいます。

カウンセラーはここで引き下がるとカウンセリングは進みませんので、対話を続けます。
そうだったんですね。そのような状況で来ていただいて、ありがとうございます。
ただ本当に嫌なら来ないこともできたと思います。それでも今この場にいらっしゃるのは、どういうお考えがあってのことでしょうか、
と伝えたりします。

状況によっては、
本当に嫌ならば、今この場でお帰りいただくこともできますが、いかがされますか。
と伝えることもあります。

すこしカウンセラーがいじわるに感じるかもしれませんが…
カウンセラーとしては、双方から、
「できることならば夫婦(カップル)関係を改善したい」
という本音を表明していただいて、話し合いの土俵をしっかり作りたいのです。

この作業ができないと、全てがぼやけたままカウンセリングが進んでしまい、
何のための話し合いなのか分からないまま終わってしまいます。

話し合いの土俵ができてから、
「この人と一緒になって、本当に何も良いことがない」などの0か100かの思考や、
相手が苦手でできないことを求めて続けて疲れ果ててしまった、
などの内容に取り組むことになります。


「どうでもいい」と言っていた方が、「大事にしてほしい」「愛してほしい」と言われることもあります。

上記を読むと、夫婦同席でカウンセリングを受ければ関係改善できる、と思われるかもしれません。

ですが、例えば不貞行為などで本当に離婚を決意されている場合などは、関係改善ができないこともあります。
(むしろ、本当に離婚を決意しているならば、関係改善のために粘ることは双方のためにならない、ということもあると思います)

最後に

夫婦は数えきれないほどの課題に直面します。
実際の夫婦の課題としては浮気・離婚・生き方・子育て観・介護・夫婦間の能力差といったテーマもあります。

もともと他人同士で異なる環境で育ち、異なった価値観を持った夫婦が、正解のない大小様々な課題に二人で一つの答えを出し続ける必要があります。

「自分は正しい。相手は自分の思うとおりにするべき」と、
夫婦間で正当性を主張して相手を変えようと必死になると、(人は変化を強要されると抵抗するので)関係は険悪になります。


夫婦だけで解決できないほど関係が悪化してしまうことは、どの夫婦にも起こりえます。

長くなってしまったので無理やりまとめますが、夫婦関係はやはり夫婦でコミュニケーションがとれるかどうかが肝なのだと思います。

コミュニケーションをとり夫婦が自分達で、お互いが(それなりに)納得のいく夫婦の姿を作っていく。
千葉カウンセリングルームでもお手伝いができれば、と思います。

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