ゲシュタルト療法

ゲシュタルト療法

ルビンの杯

概要

ゲシュタルト療法は哲学・生物学・ゲシュタルト心理学・実存主義・現象学などの影響を受けています。

正直なところ、カウンセラー(鈴木)も実存主義や現象学などはうまく説明できません。

ひとまずは以下の日本ゲシュタルト療法学会のホームページをご覧いただくと分かりやすいと思います。
https://www.japangestalt.org/


ゲシュタルト療法は1950年代にフリッツ・パールズ、ローラ・パールズ、ポール・グッドマンによって生み出されたとされています。

「ゲシュタルト」という言葉はドイツ語で「統合された形」という意味です。英語・日本語でゲシュタルトに相当する言葉がないので、そのままゲシュタルト療法と呼ばれています。

ゲシュタルト療法では、ワーカー(相談者)の過去の未完了な体験・感情・感覚は時間・空間を超えて、現在の問題(図)の背景(地)になっていると考えます。

そのため、過去の未完了な事柄を「今ここ」で起きていることとして体験することで「気づき」をえて、完了していきます。


ゲシュタルト療法について、いくつか記載します。

ゲシュタルト心理学

・ゲシュタルト心理学の原則:
人間が世界をどのように知覚するか、という実験心理学。人は要素に細分化して認識するのではなく、意味あるゲシュタルト(全体)として認識する。
例えば、人に会ったら、顔のパーツだけを見て印象を決めるのではなく、その人全体を見て印象が決まる、ということ。「全体は個の総和以上の存在」と考える。

・図と地:
「ルビンの杯」で有名。図(ず)とは知覚に明瞭に見えるもので、地(ぢ)とは背景に退くもの。
「ルビンの杯」の図(杯)と地(向かいあった顔)は、同時に認識できない。図と地は反転するのが健康な状態。
反転しない図は未完了がある(地が前面に張り付いてしまっている)と考えて、地の力動に意識を向けていく。

気づきの3領域

ゲシュタルト療法は3つの領域があると考える。からだ(内部領域)、思考(中間領域)、現実(外部領域)の3つ。
そして人が意識できるのは、その時に1つだけ。思考している時は、からだ・現実には意識は向けられない。

からだ(内部領域):身体的な感覚、感情、動き、など。
現実(外部領域):環境・現実の世界、五感(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)。
思考(中間領域):判断する、評価する、考える、記憶を思い出す、価値観を取り込む、想像する、など。

ゲシュタルト療法では、
思考は実際に存在しない、過去・未来について頭の中で作り出したもの(空想)としている。
思考はたしかに今考えているかもしれないが、「今ここ」を体験しているものとは違うとみなす。

ゲシュタルト療法のワーク(カウンセリング)では、ワーカー(相談者)の過去についての思考(解釈)はあまり重要視しない。
それは、ワーカーが「今ここ」で感じているものではなく、その解釈自体も他者・社会から取り入れた価値観でワーカー自身のものでないことが多いから。

それよりも、過去(未完了な事柄)を「今ここ」でどのように(考えているかではなく)感じているか、に焦点を当てる。
そして「今ここ」でのこととして体験し、気づきをえて、未完了な事柄を完了していく。

トップドッグとアンダードッグ

トップドッグは勝ち犬の意味で「~するべき」「正義」「社会」などの立場に立つ。
アンダードッグは負け犬の意味で「(本当は~するべきだけど)できない」「(~するべきだけど)しない」「(するべきことではなく別のことを)したい」といった弱く見える面と言える。

実際には、誰しもが「~するべき」と「(本当は~するべきと分かっているけど)できない」が対立して身動きがとれない状態を経験する。


規範的なトップドッグが悪いわけではなく、社会に適応するために必要な考えや価値観だったりもする。一方で、ワーカーの現時点ではすでに必要ない価値観だったりすることもある。

ゲシュタルト療法では、エンプティチェアでトップドッグとアンダードッグが対話をして、新たな生き方を選択する、ということも行われる。

変容の逆説的理論

ゲシュタルト療法では「人は自分でない者になろうとする時ではなく、ありのままの自分になるときに変容が起こる」としている。

ゲシュタルトセラピストは、ワーカー(相談者)を変容させようと説得したり、転移を解釈したり、行動に報酬・罰を設定したりはしない。
「(少なくともその場だけでも)自分自身であること」に重きをおく。

対話型アプローチ

ゲシュタルト療法では対話は自分について話すこと、会話は他者について話すこと、としている。

またゲシュタルト療法では、責任を重視する。
この責任は、「ねばならない」ではなく、ワーカー(相談者)の「応答する・考える・反応する・感情をもつ能力」のこと。

環境に対してどう反応するかは自分で選び、自分の思考・感情・行動は自分が作り出していて、自分の責任において新たな選択も可能としている。

ワークではワーカー(相談者)の今ここに焦点を当て、主語を私(自分)として話すことを求められる。

例えば、「〇〇さんが~だから私が~」ではなく、「私が~したい」「私はイヤだ」のように表現する。

自分の責任で選択していることに気づきやすくなる。

接触境界

接触境界とは自分と自分以外のものを隔てる境界のことで、この機能が歪んでいると、自分の外側と自由で創造的な交流が持てなくなる。
鵜呑み・投影・反転・逸脱・無境界の5種類の機能不全がある。

たとえば鵜呑みは、自分の中に自分でないものがいるような状態。
常識・道徳・慣習・他者の都合・親の価値観などが、疑問をもつ間もなく押し込まれた状態。

「男は~であるべき」「〇〇家は代々~」「おまえは何をやってもダメだ」など、自分以外のもので縛られると、自分らしく生きることが難しくなる。
また、相反する価値観を鵜呑みにすると、身動きがとれなくなる。

ゲシュタルト療法では、過去に鵜呑みにしたことを「今ここ」で体験し、現在の自分に合う形で再度取り入れる(全部捨てることもある)

エンプティチェア(空の椅子の技法)

ワーカー(相談者)の前に空の椅子(エンプティチェア)を置き、その椅子に誰か(親・兄弟・上司・友人など)がいるつもりで対話をする。

ワーカー(相談者)は自分の椅子と空の椅子を行ったり来たりし、自分と誰かの対話が進む。

椅子には自分と他者だけではなく、自分の中で葛藤している二人(トップドッグとアンダードッグ)が対話したり、
人ではなくて自分の体の痛みなどの症状を置くことも可能。


海外ではあまり行われないが、日本では椅子でなく座布団(重ねたり投げたり叩いたりできて、椅子よりも使い勝手が良い)を用いたりして独自の発展をしてきた。

ゲシュタルトの祈り

”私は私のことをする。あなたはあなたのことをする。
私はあなたの期待に添うために、この世に生きているのではない。
あなたも私の期待に添うために、この世に生きているのではない。
あなたはあなた、私は私。
もし、たまたま私たちが出会うことができれば、それはすばらしい。
もし、出会うことがなくても、それはしかたないこと。”

最後に

ゲシュタルト療法は、過去の未完了な対人関係、葛藤や感情を「今ここ」で体験するアプローチです。

親子関係(親の親(子からみて祖父母)との関係、親と子の関係の両方に有効)、夫婦関係の葛藤にも有効です。

主語はあくまで自分です。
親が~だから、上司が~と言ったから、〇〇さんが~したから、と言っていては、
相談者自身の葛藤・感情を「今ここ」で体験できないからです。

自分を主語にして率直に感情を表現しますので、ごまかしがききません。
ごまかしている間は効果がないとも言えます。

ゲシュタルト療法の効果は本や資料を読んで(思考して)わかるものではなく、
体験しないと分かりませんが、その場で効果を感じられる技法と言えます。

一方で、これまで良くも悪くも蓋をしたり曖昧にしてごまかしてきたことを、「今ここ」で再体験(頭で考えるのではなく、からだで感じる)するのですから、
苦しく行き詰ることがあります(この行き詰りをインパスと言います)。

行き詰まって終わりではなく抜け出せるのですが、
ゲシュタルト療法は場合によっては途中でストレスがかかる療法でもあります。

またゲシュタルト療法は、役割や肩書、他者や社会の意見・価値観といった思考して悩んでしまう内容は一旦脇に置き、自分自身がどう感じるのか、どうしたいのか、に焦点を当てます。

場合によっては、自分勝手や無責任になってしまう危険性もあると言えます。

千葉カウンセリングルームでは、なるべくマイルドにゲシュタルト療法を行えるように努力しています。

参考文献

日本ゲシュタルト療法学会 (2018)『JAGTゲシュタルト療法テキスト<新版>』

ゲシュタルト療法にご興味のある方は、この『JAGTゲシュタルト療法テキスト<新版>』が成り立ちからアプローチ法まで包括的に簡潔にまとめてあり、分かりやすいと思います。
書店では販売していませんが、一般の方でも以下から購入可能です。
https://www.ja-gestalt.org/study/text-info/

岡田法悦(2012)『実践”受容的な”ゲシュタルト・セラピー[第二版]』ナカニシヤ出版

百武正嗣(2004)『エンプティチェア・テクニック入門 空椅子の技法』川島書店

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