ひきこもりのカウンセリング

千葉カウンセリングルーム

ひきこもりの定義と支援の必要性

ひきこもりの定義

いきなり引用で長くなりますが、『ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン』の定義は以下になります。

「様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には 6 ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念である。なお、ひきこもりは原則として統合失調症の陽性あるいは陰性症状に基づくひきこもり状態とは一線を画した非精神病性の現象とするが、実際には確定診断がなされる前の統合失調症が含まれている可能性は低くないことに留意すべきである。」

厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業 思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究(2010)『ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン』より

上記のガイドラインでは、統合失調症に言及されています。
支援者はこのようなアンテナを張っておく必要があります。

2021年の東京都ひきこもりに係る支援協議会は提言の中で、以下のように定義しています。

・ 様々な要因により、社会的参加(就学、就労、家庭外での交遊など)を避け、 原則として6か月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態 

・ 状態を指す概念であり、それ自体は必ずしも問題行動や疾患を意味するわけではないが、当事者は自尊感情を失っていたり、生きがいをもって自分らしく、よりよく生きる意欲や勇気を失っている場合が少なくない。 また、長期間に渡るひきこもりの状態により心身に悪影響を及ぼす恐れや社会的孤立、経済的な困窮などにつながる可能性があることに留意が必要

東京都ひきこもりに係る支援協議会(2021)『ひきこもりに係る支援の充実に向けて 提言』より

上記の2つの定義によれば、ひきこもりは診断名ではなく状態を現す言葉です。

長い人生の間に、ひきこもり状態になることが必要な場合もあると思います。

では支援が必要なのはどのような場合かというと、

本人の望むのに再度の社会への参加ができなくなり、本人と家族が不安を抱えて葛藤する状態なのだと思います。

ひきこもりは、自信や意欲が下がって、孤立しやすいです。
そうなると経済的にも困窮します。
この状況は、二次的に不眠、うつ、不安、強迫、妄想、摂食障害、心身症、家庭内暴力などを生じることがあります。

家族も、本人がひきこもりであることに引け目を感じたり、本人の家庭内暴力に苦しんでいたり、といった状態も珍しくありません。

本人が望まずにひきこもりの状態になり、家族も消耗しているならば、支援が必要です。

そして支援は家族から始まります。

偏見が孤立を深めます

また引用ばかりになってしまいますが、必読と思う内容ですので載せます。

境泉洋先生が研修で話された内容が特定非営利活動法人KHJ全国ひきこもり家族会連合会のホームページから閲覧できます。

 ひきこもりを生む最たる社会要因は偏見である。ひきこもりは悪いことであるという偏見が、ひきこもりになったことを隠したいという思いを強めてしまう。その結果、ひきこもりになっても助けを求めることができずに、孤立を深めていくことになる。このサイクルになると、ひきこもりが長期化すればするほど偏見が強くなるという悪循環に陥ってしまう。

特定非営利活動法人KHJ全国ひきこもり家族連合会 令和3年度厚生労働省民間団体活動助成事業 ひきこもりの理解促進と支援体制の充実・活性化のための人材育成に関する事業(2022)『ひきこもりの理解促進と支援力向上のための研修会 研修抄録・報告書』より

(前略)ひきこもること自体は問題ではないという認識の共有が、ひきこもりを生まない社会づくりの第一歩である。
 社会に求められることとして、ひきこもり経験者を社会の一員として積極的に受け入れることが挙げられる。ひきこもり本人は、自ら社会に入っていく力が非常に弱い。ただ、周囲の理解があれば、社会の一員として十分に貢献してくれる貴重な人材である。(後略)

特定非営利活動法人KHJ全国ひきこもり家族連合会 令和3年度厚生労働省民間団体活動助成事業 ひきこもりの理解促進と支援体制の充実・活性化のための人材育成に関する事業(2022)『ひきこもりの理解促進と支援力向上のための研修会 研修抄録・報告書』より

本人に求められることは、自分らしく生きることである。(中略)
 ひきこもる生活は、人生の断捨離に成功したようなものである。自分にいらないものから離れられた時だからこそ、これからの新しい生き方を自分らしいものに再構築してもらいたい。(後略)

特定非営利活動法人KHJ全国ひきこもり家族連合会 令和3年度厚生労働省民間団体活動助成事業 ひきこもりの理解促進と支援体制の充実・活性化のための人材育成に関する事業(2022)『ひきこもりの理解促進と支援力向上のための研修会 研修抄録・報告書』より

上記は苦しんでいる当事者としては、きれいごと(理念を掲げられても現実は変わらない)に思うかもしれません。

ですが本人の周囲で一人でも多く上記のような認識でいていただけると、
地域がもっと住みやすくなると思います。

長期のひきこもりは当事者だけでは抜け出しにくい

斎藤環先生は内閣府の『ひきこもり支援者読本』の中で、
長期化したひきこもりから本人・家族だけで抜け出せることは「極めて稀」とされています。

ひきこもりシステムとは、個人ー家族ー社会のそれぞれのシステム相互のコミュニケ ーションが断絶した状態を指す。この状態は極めて安定性が高く、外部からシステムの作動そのものを変えるような介入がなされない限り、システム全体のホメオスタシスは維持される。このため放置すれば、容易に膠こう着ちゃく状態に陥り、長期化しやすい。

内閣府子ども若者・子育て施策総合推進室(2011)『ひきこもり支援者読本』より

言われてみればその通りと思います。

不登校(18歳未満)であれば、学校や自治体の福祉機関から、家庭や子どもに何らかの働きかけをしてくれます。

一方で、18歳以上になると待っているだけでは誰も助けに来てくれません。
家庭の側から支援を求めなければ、介入できる機関はありません。


そして、親子関係も断絶状態で親は諦め、本人はずっとゲーム・動画であれば、(良くも悪くも)安定した状態になります。

親子どちらかのストレスが限界になったり、親が定年してお金がなくなったり、本人のひきこもりの二次症状が重篤になったり、といった状態になるまで変化のきっかけが起きにくいです。

ひきこもりの分類と支援

ひきこもりの分類

このホームページの不登校の類型不登校の回復段階は、ひきこもりの際にも、本人の状態像の理解に役立ちますが、
ひきこもりの場合は、不登校から更に一歩進んで、本人の状態像によって支援が異なってくる視点が必要です。

ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン』には以下の表が載っています。

ひきこもりの三分類と支援のストラテジー

第一群統合失調症、気分障害、不安障害などを主診断とするひきこもりで、 薬物療法などの生物学的治療が不可欠ないしはその有効性が期待されるもので、精神療法的アプローチや福祉的な生活・就労支援などの 心理‐社会的支援も同時に実施される。
第二群広汎性発達障害や知的障害などの発達障害を主診断とするひきこもりで、発達特性に応じた精神療法的アプローチや生活・就労支援が中心となるもので、薬物療法は発達障害自体を対象とする場合と、二次障害を対象として行われる場合がある。
第三群パーソナリティ障害(ないしその傾向)や身体表現性障害、同一性の問題などを主診断とするひきこもりで、精神療法的アプローチや生活・就労支援が中心となるもので、薬物療法は付加的に行われる場合がある。
厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業 思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究(2007~2009)「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」より

またひきこもり支援の多次元モデルとして以下も載っています。

第一の次元背景にある精神障害(発達障害とパーソナリティ障害も含む)に特異的な支援
第二の次元家族を含むストレスの強い環境の修正や支援機関の掘り起こしなど環境的条件の改善
第三の次元ひきこもりが意味する思春期の自立過程(これを幼児期の“分離‐個体化過程”の再現という意味で“第二の個体化”と呼ぶ人もいます) の挫折に対する支援
厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業 思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究(2007~2009年)「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」より

ひきこもり支援の多次元モデルですが、家族の誰かこのような視点(ひきこもり本人に何が必要か?)をもっていると、
甘え・怠けなどの精神論に走りすぎてしまうことの抑止力になると思います。

またひきこもりの場合は、上記の他にも本人のパーソナリティー(性格)や職業の適正を考慮する必要もあります。

二次的な不眠、うつ、不安、強迫、妄想、摂食障害、心身症などの二次的な症状を医療機関の投薬で解消しただけでは、状態像としてのひきこもりは解決しません。

医療機関で治療が終わった→すぐ就労、とはいかないことを周囲は理解しておく必要があります。

ひきこもりの原因・きっかけ

一般社団法人ひきこもりUX会議(UXはUnique eXperience(ユニーク・エクスペリエンス=固有の体験の意味))が2019年に行った『ひきこもり・生きづらさについての実態調査2019』のデータを基に、
『ひきこもり白書2021 〈1,686人の声から見えたひきこもり・生きづらさの実態〉』が発行されています。

調査対象者が
”ひきこもり・生きづらさの当事者・経験者と自認している”
方々なので、国のひきこもりの定義とは異なりますが、参考になります。

この調査の中で、ひきこもりのきっかけ・原因についての質問があります。
「家族との関係」「からだの不調・病気・障害」「こころの不調・病気・障害」
「いじめ」「不登校」「職場の人間関係」「退職」など12項目から当てはまる項目を全て選択する形式です。

一番多く選ばれたのが「こころの不調・病気・障害」で72.7%。2番目の「家族との関係」の42%を大きく引き離しています。

また約9割の方が複数のきっかけ・原因を選択しています。

一番多く選ばれた「こころの不調・病気・障害」を選択している方の95%以上は複数項目を選択しています。


ひきこもりの累計期間との関係をみると、
累計1年未満では「いじめ」の選択した方は16.5%、15年以上で34.1%となっていて、約2倍の開きがあります。
「家族との関係」「不登校」も約2倍の開きがあります。

引用ばかりになりますが、『ひきこもり白書2021 〈1,686人の声から見えたひきこもり・生きづらさの実態〉』には以下のようにあります。

「こころの不調・病気・障害」は他の原因と組み合わせになることが多く、何かしらの負の要素が心の不調を引き起こし、それがまた別のひきこもり要因に結びついてしまう様子が浮かび上がる。

一般社団法人ひきこもりUX会議(2021)『ひきこもり白書2021 〈1,686人の声から見えたひきこもり・生きづらさの実態〉』より

いじめや不登校は、その期間が終わったとしてもトラウマや自己否定が長きにわたり深い傷を残すと考えられる。また生涯を通じて付いて回る家族との関係は、きっかけとなるとともにひきこもり状態が長引く要因にもなっているのではないだろうか。

一般社団法人ひきこもりUX会議(2021)『ひきこもり白書2021 〈1,686人の声から見えたひきこもり・生きづらさの実態〉』より

周囲が思っているよりも、本人は多くの理由で長く苦しみ続けていた、ということはよくあります。

また、家族が精神的な支えでありながらも、苦しさの要因になっていることもあります。
嫌でも離れられないのが、ひきこもりの苦しいところです。

本人への関わりについて

ひきこもりの分類に掲載した二つの引用を見ると、何だかもの凄く専門的な感じがすると思います。

ですが、本人との関わり方については、不登校の子どもへの関わり方と共通する部分が多いです。

家族がひきこもりに過度に負い目を感じない、
親の焦り・不安をぶつけない、
正論で本人を追い詰めない、
ひきこもりだからといってペナルティを課したり放任しない
といったことは不登校と共通です。

親は自らの子育てに罪悪感を抱くこともあるでしょう。
しかし、そこから一歩進んで、まずはご家族が元気になることが必要です。

本人が相談の場になかなか現れないことは不登校と共通であり、支援はまずは親から始まります。

家族各人が元気に生活し、
(本人の状態にもよりますが)家族として自然に本人と雑談したり食事をできるようになることが大切です。

家族の自然な様子が本人の警戒と緊張をやわらげます。
そして本人はエネルギーを回復していきます。

不登校とも重なるので、文字数を減らすために後は省略しますが、
ご興味のある方は、『CRAFT ひきこもりの家族支援ワークブックー共に生きるために家族ができることー』が参考になると思います。

他に、千葉カウンセリングルームが大事だと考える点を2つだけ載せます。

・本人に選択・決断してもらうように関わる。
はじめは家族の挨拶から始まって、YES・NOで答えられる会話に発展していきます。
その先として、ある程度会話ができる関係になった場合です。

本人が「どっちでもいい」「何でもいい」と言っても、本人が感じ・考えるように本人に促す。
家族は本人の答えを待つ、ということです。

自分で考える、選ぶ、決断する、ということは自立の最初の一歩です。

小さな選択から始めることがコツです。

・本人に助けてもらう。感謝を伝える。
本人が部屋から出られる状態であれば、
本人ができることを家族がお願いすることは問題ありません。

これは、「どうせ何もしないで一日家にいるんだから〇〇くらいして当然」ではなく、
家族が助け合うという意味でのお願いです。

本人が手伝ったり、助けたりしてくれた際には、
「助かった。ありがとう」と感謝の気持ちを伝えましょう。

本人は、ひきこもり状態により、自分に自信がなかったり価値がないと思ってたりします。

「助かった。ありがとう」は本人の中に、
人の役に立った、自分は人の役に立てる、できる、という気持ちを生み出します。

このように思えることは、活動の場を広げる際の挑戦に必要です。

ひきこもりの難しい課題

お金の問題(親の定年後の生活費)

親の定年退職が視野に入ってくると、親のリタイア後のお金の問題が現実のものになってきます。

この問題は親を焦らせます。そして親の切迫感は本人にも伝わります。

動き出す準備ができていない本人を、親の切迫感から何とか動かそうとすると、逆効果になります。


不登校の急性期に、登校させようとすると、家庭内暴力になったりするのと同じです。

ですので、できればある程度お金の見通しがつく状態にできると、親子ともに落ち着けると思います。

そうすると、本人がますますひきこもり状態に安住するのでは、と考える方もいるかもしれませんが、
本人は社会参加の重要性は理解しているものです。

重要性は理解しているが、自信がなく動けないで苦しんでいるのです。

安心できる環境があるからこそ、次のステップに挑めます。

文字数が増えてしまうので詳細は控えますが、
この課題に直面されている方は、
畠中雅子(2022)『お金のプロに相談してみた! 息子、娘が中高年ひきこもりでも どうにかなるって本当ですか? 親亡き後、子どもが「孤独」と「貧困」にならない生活設計』
は参考になるかもしれません。

就労のハードルの高さ

不登校の場合は、不登校→再登校と進めることも多いと思います。

ですが、ひきこもり→就労の二段階で進めることは稀でしょう。

不登校の場合は、とりあえず学校に行ければ先生方が本人に合わせて対応してくださいます。

一方でひきこもりから就労するには、求人に応募して採用されなければなりません。

不登校の子どもが担任に歓迎されて在籍校に戻るのと、
ひきこもりから履歴書を作って面接を受けて就職、職場での責任を果たして就労を続ける、とでは難易度が違います。

ひきこもりから就労となると、
家族による本人支援→支援機関による家族支援(支援を受けた家族による本人支援)→(可能であれば支援機関の訪問による本人支援)→本人が支援機関(相談機関・医療機関)に出向いて支援をうける→居場所参加→(場合によっては就職活動準備(講習や訓練))→就職活動→就労
とある程度の段階を踏むことが必要な場合があります。

段階的に底上げをして足元を固めてからでないと、
就労の高いハードルを越えることが難しい方は珍しくありません。

段階的に活動の場を広げて自信と意欲を取り戻していき、その結果として就職活動が選択肢の一つになります。

ご家族としては、何て先の長い道のりなんだ、と思うかもしれません。

そして実際に、就労への道のりは長い、と思っていただいた方が良いです。

一番大切な”はず”の本人の思い

千葉カウンセリングルーム

本人の思いは…

繰り返しになってしまいますが、支援は家族から始まります。
そして本人は自身について語りたがらないことが多いです。

そうなると家族と支援者だけで、
どうすれば本人はやる気になるのか、動きだすのか、いつ就労できるのか、
という話になりがちです(なってしまいます…)。

本人の状態に対して、家族・支援者の話す内容は適切なのでしょうか…。
本人が自身の状態について話してくれればありがたいですが、話せない際には、当事者の方々の声は参考になると思います。

ひきこもりは百人百様で決めつけられるものではありませんが、
カウンセラー(鈴木)の印象に残っている声を(加工して)あげると、

・もうこれ以上がんばれない。がんばりたくない。
・そもそも支援なんて頼んでないし、求めてない。
・迷惑かけないで死ねるなら死にたい。消えたい。
・外で傷ついて家にいるのに、むりやり引っ張り出そうとしないで。
・就職したって、どうせ同じ繰り返しになる。
・やればできる、みんな(苦しいのは)同じ、とか聞きたくもない。

そして周囲はあまり認識していないのですが、
本人は長い期間にわたって一人で苦しんでいて、それらが積み重なってひきこもっていることが多いです。

もし本人が上記のような思いでいる時に正論をぶつけても響かないでしょうし、本人は全てがイヤになってしまうでしょう。

またいきなり引用になってしまいますが、
一般社団法人ひきこもりUX会議の林恭子先生が書かれた『ひきこもりの真実 ー就労より自立より大切なこと』という本があります。

この本には、林先生のひきこもりの経験として、
ひきこもっている状態は、
”土の中に生き埋めにされているようなもの”であって、
”地上の世界で暮らしている人とはまったく次元の違う世界に生きているようなものであり、地上の意識で声かけしても届かない”
とあります。

実際に生き埋めを経験することはできないのでイメージの話になりますが、周囲が言葉で本人に働きかけても響かないことは分かる気がします。

ご家族には、ひきこもりの当事者の方の声に触れる機会をもっていただけると、本人への良かれと思っての逆効果を避けやすくなると思います。

ひきこもりのゴールを決めるのは誰?

千葉カウンセリングルーム

2023年11月にKHJひきこもり家族会連合会の全国大会が千葉でありました。
福岡県北九州市のNPO法人抱樸(ほうぼく)の奥田先生の
”縦の成長でなく、横に成長”
というお話がとても印象に残りました。

ひきこもりの本人に限らず、日本人は学校で、
もっと勉強、もっと練習して、もっと良い点数、もっと上手に、もっと空気を読めるように、
とがんばることを求められます。

大人になっても同じで、
もっと売り上げを、もっと効率よく、競争に勝とう、

とやってるわけで学校とたいして変わりません。
できないことを克服しよう、上手になろう、もっとお金を稼ごう、などは学校教育と同じ縦の成長です。

横の成長とは、今の状態で世界を広げる(人との繋がりを広げる)ことです。

ひきこもりになる方は、縦の成長を求める社会で、疲れたり傷ついた方もいるでしょう。
それでひきこもっているのです。

その疲れて傷ついた方に、
アサーショントレーニングして人間関係うまくなろう、自己分析して履歴書作ろう、就職しよう、お金稼いで自立しよう、
と周囲が言っても、本人はうんざりするでしょう。

また、やる気にならない本人を何とか就職させたとして、仕事が続くのか…。
あまり無理に働き始めても、うつ病になる可能性もあります。

上に伸びることも大切ですが、まずは横に広がる(人との繋がりを作っていく)という考え方も必要だと思います。

そして、生きていていいんだと思えたり、少しずつ自信がついていく。
自分の生き方を考えられるようになってくる。何かをしよう、という気になってくる。
その選択肢の一つとして、ようやくここで(人によっては)就労が出てくるのです。


本人からすれば、傷ついて大変な思いをして、ようやくひきこもり状態になって、縦の成長を求める世界から戦線離脱したのです。
望んだわけではなくても、(表現は悪いかもしれませんが)せっかくひきこもり状態になったのです。

そこで、(家族は本人のために良かれと思ってですが)早期発見・早期介入として、また元の世界に戻すことが本人のためになるのか…。
本人は望んでいるでしょうか。

本人がどうしたいかハッキリ言わない、行動しない。
だからといって家族が本人のやることを決めて良い結果になるのか…。

また就労と言っても、新型コロナウイルスの影響で働き方も変わりました。
人に会わなくても、家から出なくてもお金を稼ぎやすくなっています。
国も投資・副業と言っている世の中ですので、
会社からお給料を貰う以外でお金を稼ぐことが、更に一般的になってくるのではないでしょうか。

ひきこもりのゴールを考えると、
苦手なことをどこまで頑張ろうとするのか、何を頑張って何を諦めるのか、自分にとって何が幸せか、自分と身近な人が幸せならば何でもアリではないか、本当はどう生きたいのか、
と抽象的で大きなテーマになってしまいます。

ですがこんなテーマと向き合えるのも、ひきこもり状態のメリットではないでしょうか。

家族としては、とりあえず早くバイトでも何でもしてほしい、哲学みたいな話はその後でいい、親亡き後も生きていけると安心させてほしい、という思いだと思います。

ご家族の思いは分かりますが、一旦横に置いて、
ご本人の意思と回復のプロセスを尊重していただくことが、
結局はご家族の望みへの近道になるのではないでしょうか。

ひきこもりのカウンセリング

当相談室では、ひきこもりの相談で最初から本人が来室されたことは(ひきこもりなので)ありません。
ご家族(親やきょうだい)の相談から始まります。

ご家族は、
どうすればひきこもりの本人を動かせるか、
本人を支援機関(病院含む)に繋げる方法はあるのか、
周囲が何を言っても動かない本人は何を考えているのか、
強制は良くないと思って様子見してるが、いつまで待つべきか、
などの質問をされて、ひきこもりの相談は始まることが多いです。

相談される方の中には、何か自分の知らない良い方法があるのではないか?
と期待して来室される方もいらっしゃいます。
ですが、ひきこもりの場合は特に、期待されるような効率的で効果的な方法はありません。
(病気ではないので薬で改善できませんし、高齢者の介護のようなサービスもありません)

やはり本人がやる気になるしかありません。

ご家族ができるのは、
本人がやる気になりやすい環境を作ることです。

上記は理屈の話ですが、
実際にはご家族はひきこもりの本人のことが心配で、焦っています。
親が仕事を引退するタイミングも絡むと、経済的な課題も加わって、なんとかして本人を動かそうと思います。
家族の立場になれば、冷静でいられなくなるのも当然です。

家族が心配・不安→本人にプレッシャーをかける→改善しない→今度は反対に見守る→改善しない→心配・不安
とグルグル回ってしまい、家族も消耗します。
そして何とか本人を動かす方法はないか、
と当相談室にいらっしゃいます。

実際のカウンセリングでは、合理的・理論的で職業人として優秀なご家族ほど、カウンセラーに対して端的に明確な質問をして、本人を動かす方法の正解を求められます。
ですが、繰り返しで申し訳ありませんが、カウンセラーはそんな良い方法は無いと思っています。

では千葉カウンセリングルームでは正解を言えずに何をするかですが、
ひきこもりのご家族が心配になることを踏まえた上で、
その心配・不安・焦りをなるべく具体的にしたいと考えています。

お子さんが働いていないと何がダメなんでしょう?
と、あえて質問します。
(そんなの国民の義務で当たり前だろう、と怒らないでいただきたいですが…)


そうしていくと、
ご家族自身の、~すべき・~ねばならない、周囲の目が…、といった考えが、ご家族とひきこもりの本人を更に苦しくしていることなどに気づきます。
働かないことを認められないのは、自分の問題なんだ、と言われるご家族もいらっしゃいます。

そして、ひきこもりの本人との新たな距離感・関わり方を見出していきます。
必然的に家族と引きこもり本人の関係性も変わります。
その関係性が、本人が良いと思える関係性ならば、本人がやる気になりやすい環境に近づいたと言えるのではないでしょうか。

また、本人が動き出さないのはどのような理由がありそうか、本人は家族に何を望んでいるのか、
を考えてもらいたいと思っています。

本人がこの場(カウンセリングの場)にいたとしたら、これまでのご家族の話を聞いて、何とおっしゃるでしょうか?
本人が何でも言いたいことを表現できたら、家族にどうしてほしい、と言われるでしょう?
と質問します。

本人の考えは本人しか分からないので想像の話になりますが、上記のようなやりとりを通して、だんだんと
「本人を早く動かす方法」から「本人の状態に合わせてどうするのが良いか」
というようにテーマが移り、
今どうするべきかをご家族自身が答えを出されることをカウンセラー(鈴木)としては意図しています。

上記を読んで、
なんだかカウンセリングを受けても全然進まなそう、
もっとズバッと効果的なアドバイスをしてもらえないのか、
という方もいると思います。

ここはカウンセラーとしても苦しいところなのですが、〇〇しましょう、とはなるべく言わないように努力しています。

その理由ですが、
〇〇しましょう、と言われても大体の人は(カウンセラーも含めて)行動しませんし、
行動しても、〇〇したら~~だった、で終わるからです。

誰もが、自分で気づいて腑に落ちたことでないと、行動は変わらないし、行動し続けることはできないからです。
(強制力があるものは除きます)

実際のカウンセリングをイメージしていただくために、
家族との関係性について書きましたが、ひきこもりは家族との関係が問題(家族が悪い)と言いたいわけではありません。

ひきこもりは家族関係以外にも複数の要因(家庭以外での傷ついた経験など)が絡み合っていることが多く、そのため改善が難しいです。
家族関係が良くなればひきこもりが終わる、といった単純な話ではありません。

ただやはり、ひきこもりの状態だからこそ、ひきこもりの本人と一番多く関わるのは家族でしょう。
一番影響しあい、本人を支えられるのも家族です。

家族との良い関係は、ひきこもり改善の土台となります。
そして家族も支えられる必要があります。

長くなりましたが、千葉カウンセリングルームではご家族を支えられる(それがひきこもり改善に繋がる)ように日々研鑽を積んでいます。

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