不安症について
不安について
不安とは、将来の危険を予知することによって起こる漠然とした恐れです。
不安に似た言葉に恐怖がありますが、恐怖は不安よりも対象が明確です。
不安は恐怖よりも漠然とした恐れで、その人の予感・懸念といった認知面に左右されます。
「〇〇になったらどうしよう」というのが不安です。
不安は怒りと同様に、カウンセリングのテーマになりやすいですが、
不安自体には良い悪いもありません。
人はある程度の不安があるからこそ、その不安が実現しないように、
または実現しても大丈夫なように、努力・準備をします。
不安は必要です。
必要なのですが、何事も程度が重要です。
一般的な不安は不安に感じる理由がはっきりして、他者が聞いても「それは不安になるよね」と了解できることが多く、それほど長引きません。
過剰になると、日々の生活に支障が出てしまいます。
不安症について
精神疾患の説明で心理職が何かつけて引用するDSM(『精神疾患の分類と統計マニュアル』の頭文字D・S・M)の第4版では不安障害というカテゴリの中に、
不安症も強迫症も心的外傷関連も全部まとめられていました。
一般的に言うあがり症やパニック発作は不安症群に入ります。
手洗いを繰り返したり、戸締りなどの確認がやめられないのが強迫症になります。
心的外傷というのはいわゆるトラウマのことです。
DSM第5版では、不安症は強迫症・心的外傷とは分けられました。
このページでは不安症群の中の、社交不安症、全般不安症、パニック症、広場恐怖について取り上げます。
(選択制緘黙や分離不安症は不安症群に入りますが、ここでは触れません)
社交不安症
社交不安症は、
他者と関わる場面で不安や緊張が強く、社会生活に支障がでる状態です。
自分の能力・容姿・パフォーマンスが否定的に評価されたり、恥をかくことを強く恐れます。
例としては、他者の前で発言する時の、いわゆる「あがり症」が分かりやすいと思いますが、
発言だけでなく、他者の前で食事ができない等もあります。
全般性不安症
全般性不安症は、
様々なことについて過剰な不安や心配が長く続きます。
不安の対象は日常の些細なことから、健康・お金・人間関係など様々です。
「家族が事故にあったらどうしよう」「仕事でクビになったらどうしよう」など一般的に理解できそうなこともあります。
1つの対象への心配が終わると、別のことを心配します。特定の対象について執着していません。
全般不安症は過度の不安・心配から
落ち着けない・緊張・疲れやすい・集中できない・怒りやすい・筋肉の緊張・睡眠の問題などが起こります。
パニック症
パニック症ですが、
文字数が多くなってしまうので、まずは簡単にまとめている厚生労働省のページのリンクを貼らせていただきます。
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/youth/stress/know/know_02.html
パニック症はパニック発作と予期不安が特徴です。
パニック発作は強い不安と身体症状が同時に起こり、10分以内にピークに達して、一定時間が過ぎると収まります。
パニック発作は、
「このまま死んでしまうんじゃないか」「気が狂ってしまう」くらいの苦しさを感じることもあります。
本当に苦しいので周囲が救急車を呼んでくれることもありますが、救急車が着いた時には症状は治まっていて、病院で検査しても身体的には異常なし、となります。
パニック発作の苦しさは、未経験の方が想像するのは難しいと思います。
未経験のご家族は「いつまでも甘えるな」と説教したくなると思いますが、
説教よりも受診を勧めていただけると良いと思います。
実際に心臓の病気や、てんかんなどが原因でパニック発作のような症状が出ることもあるので、一度受診していただきたいです。
パニック発作は特定の状況で起こる方もいます。
一方で、職場で起きたり自宅で起きたりと、いつどこで起こるか分からない方もいらっしゃいます。
この予想できないパニック発作は「また発作が起きるのではないか」と人を不安にさせます。
この不安を予期不安と言います。
複数回のパニック発作があり、予期不安や回避行動(発作を避けるため仕事を辞めたり運動や外出しない)が続くとパニック症の診断基準を満たすことになります。
広場恐怖症
広場恐怖症は、
公共交通機関・駐車場などの広い場所・映画館など囲まれた場所・並んだり人ごみの中、
などの状況に強い不安や恐怖を感じ、
パニック発作のような症状になったら、逃げられない・助けが得られないと考えて、
その状況を回避する状態を言います。
パニック発作を経験すると、
またパニック発作になったらどうしよう(予期不安)、と考えるのも自然と言えます。
そうして、電車に乗ってパニック発作になったらどうしよう、と考えて電車に乗れなくなったりします。
同じ要領で、外出できなくなったり、会社に行けなくなったりします。
電車やバスは広くはないですが、
広場=広いとすぐに逃げられない・隠れたりできない、という意味では、
電車やバスはまさにすぐに逃げられない場所と言えます。
広場恐怖症はパニック発作との関連が強いですが、パニック症でも広場恐怖症を伴わないこともあります。
不安症の見分け方
不安関連の疾患は併存することが多いです。
併存すると、回避(避ける)する対象も増えて、できないことが増えていってしまい、
本当は何が不安なのか分かりにくくなります。
根本が分かった方が改善の取り組みしやすいです。
目安として、
社交不安症は、他者からの否定的な評価、恥をかくことへの不安ですので、人前を避けます。
パニック症は、パニック発作に対する不安ですので、パニックが起こりそうな状況を避けます。
広場恐怖症は、すぐに逃げられない・助けが得られないと思う状況への不安ですので、そのように感じる場所を避けます。
広場恐怖症の診断基準の不安に感じる状況の一つに、「家の外に一人でいること」があります。
重症になると自宅から外に出ることが難しいこともあります。
全般不安症は、日常の些細なことから病気・収入・対人関係など様々な対象への不安で、特定の対象に執着しないので、特定の対象を回避(避ける)しないので活動範囲は制限されません。
なお不安症については、
貝谷久宣・佐々木司・清水栄司『こころの科学 不安症の事典』日本評論社 2015年
に不安症の概要が載っています。
不安症だけでなく、強迫症・過敏性腸症候群・PTSDなど不安関連の疾患の概要も載っていますし、身体的な病気やうつ病・神経発達障害などとの関連も載っています。
治療についても、服薬についてだけでなく、森田療法・マインドフルネスも簡潔に載っています。
専門用語が多いかもしれませんが、不安について体形的に簡潔にまとまっています。
不安症は様々な症状が併存するので、この一冊があると便利だと思います。
不安症のカウンセリング
まずは服薬も選択肢
不安に対してどうするのか?ですが、
日本不安症学会のホームページ
https://jpsad.jp/
には投薬と認知行動療法カウンセリングと載っています。
何を調べても、服薬と認知行動療法が出てくると思います。
服薬して、
薬の効果で不安がやわらげば、それで良し。
また薬があまり効かなかったとしても、不安になっても薬を飲めば落ち着ける、とお守りのように思えて、
日常への支障が減るならば、それも良し。
だと思います。
千葉カウンセリングルームとしては、
カウンセリングでも同様ですが、
不安をゼロにしよう、
不安を克服しよう、
不安に感じない自分になろう、
とは思わないことが大切と考えています。
薬を飲んでみて、
言われてみれば薬も効いてる感じがするけど、そんなに効いてるのかな。でもとりあえず仕事行けてるからいいかな、
くらいのノリでも良いのではないでしょうか。
不安に焦点を当ててゼロにしようと思うと、
まだ不安がこんなにある、こんなに悪影響がある、とマイナス面ばかりが目につき悪循環になります。
薬を飲んだからといって一生飲み続けるわけではありません。
不安を克服して、不安に負けない自分になることが目的ではないと思います。
もっと大切なことを手に入れられるのなら、一時期服に頼っても良いのではないでしょうか。
認知行動療法と森田療法
薬を飲んでも困り感が続いている場合、カウンセリングを受けても良いと思います。
そこで不安の治療について調べると、大抵の場合は、
服薬(抗うつ薬・抗不安薬)と認知行動療法、
と出てくると思います。
認知行動療法というのは、
偏った認知(ものごとの捉え方・考え方)と行動を修正する、というものです。
日々の課題としてコラム表を記入したりもします。
認知行動療法が悪いわけではなく(むしろ不安のカウンセリングでは王道)
合理的だったり、理屈で納得して動くタイプの方は効果が出やすいと思います。
そして少しマニアック?なサイトだと、
森田療法というものが出てくると思います。
森田療法は日本発祥の技法です。
要点としては、
”あるがまま”
です。
不安症というのは、
△△になったら、××と思われたら、どうしよう、
と不安になって、
人や場所や場面を避けたり、不安を無くそうとしたりします。
ですが、この努力が更に自分の△△や××に注意を向けることになり、
更に過敏になり△△や××が強くなる悪循環(森田療法でいう”精神交互作用”)になります。
△△や××を「あってはならない」「〇〇であるべき」と考えて(”思想の矛盾”)
コントロールしようとすることで更に過敏になり悪循環(”精神交互作用”)になるのですが、
森田療法は
△△や××も人が生きていく上で起きる自然なこととして受け入れて、そのままにしておく態度(”あるがまま”)を目指します。
また不安になるのは、より良く生きたいという”生の欲望”があるからと考えます。
不安に対しては”あるがまま”で、一方で”生の欲望”を具体的な行動に移して、”とらわれ”から脱して、自分の人生を生きる、
というのが概要になります。
「あってはならない」「〇〇であるべき」という”思想の矛盾”によるコントロールを手放す点は認知行動療法に共通すると思います。
また森田療法の森田先生自身が不安症に苦しんだのですが、
ご自身は(生の欲望を具体的行動として)受験勉強に集中して不安症を克服しています。
不安が無い状態を作ろうとするよりも、
何かをすることで不安への”とらわれ”から脱するという点も取り組みやすいと思います。
カウンセラー(鈴木)としては、不安症だから森田療法しましょう、とはなりませんが、
森田療法の考え方は頭の引き出しに大事に入れておきたいです。
ソリューション・フォーカスト・アプローチ
それでは千葉カウンセリングルームでは不安症に対してどうするかですが、
ソリューション・フォーカスト・アプローチがベースになります。
(カタカナだと凄そう?ですが、特別なことはなく対話のカウンセリングです…)
認知行動療法の”認知(ものごとの認識の仕方)の変容”も大切で必要なことですが、
やはり「頭では分かってるつもりだけど、実際には…」となる方がいるのも事実です。
認知行動療法の不安への暴露もうまくいけばいいのですが、失敗しないとは言いきれません。
森田療法の”あるがまま”も”生への欲望”を行動に移すのも、素晴らしいことだと思いますが、
カウンセラー(鈴木)自身が強い人間ではないので、
自分(鈴木)だったらそんなに上手く進めるか?と、どこかで思ってしまう自分がいます。
どちらの療法の内容も、必要なことなのですが、
なんだかダメな部分を変える、頑張る、ねばならない、というニュアンスを少し感じてしまいます。
(カウンセラー(鈴木)の理解が足りてないだけでしたら、すいません)
ソリューションフォーカストアプローチは、
相談者自身に解決の力がある、既に解決の種はある、既にある種に気づいて大きくしていく、問題への意味づけが変わる、現実も変わる、
という基本的な考え方です。
この基本的な考え方のもと、解決像の構築、例外の探索、の2つを行います。
解決像の構築は、
「もし寝ている間に奇跡が起こったら~(ミラクルクエスチョン)」のようなことを考えてもらいます。
文章で読んでいると、全く意味が無いように思えますが、とても意味があります。
不安症という問題から、現実を切り離すのです。
相談者は「この不安さえなければ」と考えて悩んでいるのですが、
不安がなかったらどうなっているのか、
問題が解決したとしたら今と何が変わるのか、
相談者の大切な人との関係はどうなるのか、
周囲の人は相談者のどんな違いに気づくのか、
何が解決像の小さな最初の一歩になるか、
などなど。
なるべく具体的になるほど、イメージができるほど、相談者は何をするか明確になり行動に移しやすく、希望がもてます。
例外の探索は、
上記の解決像が実際に少しでも実現している時はないか、
問題が起きておかしくないのに起きなかった時はあるか、
を確認して、その時は、
いつもと何がどう違うのか、
相談者は何をしていたのか、
どうやってその行動をしたのか、
その行動をした意図は何か、
などなど。
相談者に起きている例外は、既にある相談者オリジナルの小さな解決です。
そこに不安症を克服する(不安に振り回されない)大切なヒントがあります。
また、例外を意図的に起こせるようになったり、汎化したりできれば、不安をコントロールできる感覚も増します。
上記の解決像の構築と例外の探索をスケーリング(10点満点で何点かの自己評価)と組み合わせてやっていきます。
このような取り組みを続けていくと、
不安に対して、
コントロール不能で日常生活を大きく阻害してどうにもならないもの、
と意味づけしていたのが、
完全になくならないかもしれないけど、ある程度コントロールできるし、対策できるし、何とかなるもの、
という意味づけになってきます。
そして日常への支障も減っていき、そのうち困らなくなったり、気にならなくなったりします。
ソリューション・フォーカスト・アプローチは原因や責任に焦点を当てませんし、
相談者の力をとことん信じる姿勢なので、
相談者に負担が少なくて優しい?心理療法のように思えますが…
解決像の構築と例外の探索で、訊き方を変えて何度もしつこく質問します。
(文字数が多くなるので具体的な質問を書けませんが)
ここを徹底的に取り組まないと、
相談者は不安から離れられず、「でもやっぱり不安で、何にも変わらないです」を繰り返すことになってしまいます。
特定の他者との関係が原因のこともあります
不安症は特定の他者との関係(親子、上司と部下など)が大きな要因のこともあります。
この時に、特定の他者を考慮せずに不安の症状に焦点を当ててソリューション・フォーカスト・アプローチをしても効果はでません。
ソリューション・フォーカスト・アプローチの解決像の構築の条件の一つに、
”社会相互作用的な言葉で記述される”
があります。
ですのでカウンセラーは、
(解決したら)その方との関係はどう変わりますか?
変わったら、その方は、相談者がどんな風になったと言うでしょうか?
その方を前にして、相談者の表情、話し方、話す内容はどうなりますか?
そうなったら、その方の表情・話し方・話す内容はどうなりそうですか?
などなど…
特定の他者を絡めて、しつこく訊きます。
(これをしないと形だけの実践になってしまい効果がないのです…)
相談者は、特定の他者との関係性について意味づけが変わり、距離感を見出して、コントロールできる感覚を得ていきます。
そして不安も減っていきます。
最後に
ソリューション・フォーカスト・アプローチについて多く文字数を割いてますが、
特定の他者との関係にはゲシュタルト療法、
不安の原因となる過去の出来事にはTFTやボディコネクトセラピー、
が効果的なこともあります。
効果が期待できそうな際には行えると良いと思います。
どんなカウンセリングを行おうとも、
不安なものがあってもやっていけると思えること、
を目指します。
そして、そのうちに不安が無くなる(ゼロにならなくても大分減る)時がきます。
不安症は、不安が不安を呼び悪循環になり、視野狭窄状態になってしまいます。
ご家族や周囲の方も、そこまで不安に思う必要はないのに、と助言しても不安な本人は受け入れられないので、なかなか悪循環から抜け出せません。
千葉カウンセリングルームで不安から距離を置いて抜け出すお手伝いができればと思います。
このページのソリューション・フォーカスト・アプローチの部分を読んでも、
カウンセリングを受けようと思えないかもしれませんが、
一つの技法に固執するつもりはありませんので、肩の力を抜いてご利用いただければと思います。