”怒り”について
怒る理由
怒り自体には良いも悪いもありません。
怒りは自分を守る時(戦う時)に必要な感情です。
攻撃された時に、怒る(怒れる)のは当然です。
ですが、ちょっとしたことで、いきなりキレる、
ということもあります。
戦う必要がない時に、一人で必要以上に怒っていては自分も周囲も傷つきます。
人が必要以上に怒る理由について、
千葉カウンセリングルームでは、ゲシュタルト療法とブリーフセラピーの考え方を前提としています。
ゲシュタルト療法の考え方では、
(怒りだけでなく他の感情もですが)相手によって相談者の過去の未完了の事柄(過去、出来事を体験した際に感情を表出しきれなかった時に生まれる)が刺激されて怒る、と考えます。
対してブリーフセラピーでは、
(ブリーフセラピーも怒りだけでなく他の感情もですが)相談者個人の問題とはしません。
相談者の問題解決(この場合は怒りの解決)の努力が、怒りを維持しているのであり、怒りは相手との相互コミュニケーションの産物、と考えます。
ゲシュタルト療法は相談者個人と過去に焦点を当てますが、
ブリーフセラピーは相手との関係性・相互作用(コミュニケーション連鎖)と現在・未来に焦点を当てます。
カウンセリングでも行うことは異なります。
ゲシュタルト療法では、過去の未完了な事柄を「いま・ここ」で体験してもらい、
過去に表出できなかった感情・感覚を感じて表出します(文章にすると、とても大変そうですが…)。
その結果、怒らなく(怒りにくく)なります。
ブリーフセラピーでは、現在の相手のコミュニケーションの悪循環
(当事者にとっては怒らないために努力した結果のコミュニケーションなのですが)を抜け出し、
良循環を作っていきます。
そして、怒らなくなる、
といいますか、怒る機会が減る→それが更に怒らない関係性を作り、怒る機会がもっと減っていく、
というイメージでしょうか。
考え方もやることも、正反対ですが…
正反対に精通している(精通する努力を続ける)からこそ、実際のカウンセリングでは相談の幅が広がります。
たとえば、怒る人が一人でカウンセリングに来られた場合はゲシュタルト療法で怒らなくなることを目標にしても良いでしょう。
ですが、怒られる人が一人で来た場合はゲシュタルト療法だけでは行き詰ることもあります。
ゲシュタルト療法は相談者個人に焦点を当てるからです。
相談の場に来ていない人(この場合は怒る人)に変化を起こすには、
やはり二者以上の関係性を扱うブリーフセラピーの考え方が必要になります。
(不登校・ひきこもり・自傷・万引きなど、本人のいない親だけの相談で効果があるのは、家族が変われば本人との関係性も変わり、本人に影響するからです)
DVについて
DVについて簡単に記載します。
DVでは、些細なことで激しく怒る方がいらっしゃいます。
夕食のトンカツにソースが出てなかった、
「でも~~」と言われた、反論された、
不機嫌そうな顔をされた、
などなど、
”こんなことで何でそんなに怒るの?”と周囲は不思議に思うくらいです。
ですが、怒る方としては必死です。
怒る方の中では、トンカツにソースが出ていないことで、
ないがしろにされている、軽く見られている、バカにされている、大事にされていない、
などと考えます。
怒る方としては被害者なのです。
そして、相手の間違いを正してやっている、などのように考えています。
怒る方は自分は正しいと思っています。
怒られる方は、何度も人間性を否定されて、
「怒られるのは自分が悪いからだ」のように考え、うつ状態になります。
二人の力関係は固定されて、支配・被支配の関係になります。
(この支配・被支配の関係がDVの問題の本質です)
DVをされる方について、第三者から見ると、
怒られる人に対して、何で逃げないんだろう?何で離婚しないんだろう?
と思うのですが、
DVにはサイクルがあり、怒った後に優しくなったりする(ハネムーン期)ので、
「でも、優しいところもあるし」
と思って関係を続けやすいです。
またDVにより、無気力になったり、逃げるエネルギーがなくなったり、自信がなくなり希望が持てなくなったり、
という状態になると行動を起こせなくなります。
DVをする方については、何でそんなに怒るのかですが、
根底には、自信のなさ・不安・悲しみ・甘え・依存などがあります(あることが多いです)。
全てを相手のせいにして、身体的・精神的・経済的・性的などの暴力を振るう姿は尊大にも見えるのですが…
離婚されたら生きていけない、と思っていたり、
家庭の外では肩身の狭い思いをしていたり、
〇〇してもらって当然、
と思っていたりします。
自信がなく自立していないのです。
また自分と他者の境界線が曖昧です。
DVをしている方にとっては大変厳しい文章になってしまいましたが、
DVをしている方も過去に大きな傷つきをされていることは珍しくありません。
DVは犯罪、と伝えるだけでは改善しません。
DV加害者プログラムのグループに参加できればよいのですが、日本ではあまり実施されていません。
実施されていても、グループの期間はそれなり長く、料金も高く、なかなか参加しにくいのが現状です。
避難が必要なこともあります
暴力・暴言などの程度によっては、別居や避難(シェルターなど)が必要なこともあります。
相談者の健康と安全が最優先です。
(ブリーフセラピーの考え方で)怒る人とのコミュニケーションを変える努力をするにしても、
相談者にある程度のエネルギーは必要です。
子どもがいるご夫婦では、
子どものために別居はしたくない、
と考えられる方もいらっしゃいますが…
別居・避難をすることで、怒る人も自らの課題と向き合うきっかけになることもあります。
”怒り”についてのカウンセリング
怒る人が一人で来ている場合
カウンセラーとしては、三つの選択肢があります。
一つ目は、必要以上に怒るというのは、過去の未完了な事柄が影響している、と考えます。
(ゲシュタルト療法の考え方です)
たとえば、子ども時代に親へ逆らえなかった相談者が、
我が子の反抗を許せずに過剰に怒ってしまう、
ということはあります。
このような時に、相談者自身の親に言えなかった思いを表現してもらいます。
そうすると相談者自身は
親に反抗したかった
反抗して当然だった
でも反抗すると叩かれて家から閉め出されて、子どもの自分は反抗できなかった
反抗しないことはあの頃の自分には必要だった
反抗しないことで生きてこれた
でも大人になった今は必要ない、嫌なことには反抗していいんだ
親は親で、子どもから反抗されるのがスゴイ怖かったんじゃないか
など話されて涙を流される方もいらっしゃいます。
(イメージの中で、当時の反抗できなかった小さな自分を癒してあげたりすることもあります)
そして一息ついて、それは自分の子どもも同じ、反抗していいんですよね、と落ちつかれます。
ここまでで、終了で良いとされて、あまり怒らなくなる方もいらっしゃいます。
ここで終わらずに、自分はもっと未完了な事柄がある、とカウンセリングを続ける方もいらっしゃいます。
二つ目は、怒ったり不安になったりするかわりに、どうなっていたいかを思い描いてもらいます。
(ソリューションフォーカストアプローチの解決構築のやり方です)
理想的な姿を、実現可能な最初の一歩から描けるほど、自分の求める姿が明確になり、実現できるように思えてきます。
良い状態が増えるので、相対的に怒りが減ります。
そして、怒りにとらわれなくなってストレスが減り、更に怒りや不安が減るという好循環になります。
三つ目はおまけのように付け加えてしまいますが、
怒る人が来室されて、過去の印象的な出来事(トラウマになっている)が怒りの元になっていそうな際には、
思考場療法・ボディコネクトセラピーを実施することも有効です。
怒られる人だけが(一人または二人以上)来ている場合
怒る本人が不在の相談となると、相談者自身や相談者の子どもが怒られていることが多いです。
この場合、相談者が傷ついていて罪悪感を持っていたり(自分が悪いから相手を怒らせてしまう、など)、
うつ状態になっていることもあります。
ですので、まずは怒るのは怒る人の都合であることや、休養が必要なことを説明します。
そして、
”もし今この場に、怒る人がいるとしたら、その人は何と言うと思いますか”という質問をします。
(そのまま進んで、ゲシュタルト療法のエンプティチェアをしてもらうこともあります)
この質問で、
怒る人は自信がなかったり、不安だったり、
という気づき(怒る本人ではないので推測ですが)を得ることがあります。
気づき(これまでになかった新しい視点)を得ると、
怒る人に対して、
これから〇〇して関わっていきます、
と答えを出される方もいます。
対話を続けて、相談者が元気になってきたら、
怒る方とのコミュニケーションについて検討することもあります。
(ブリーフセラピーの考え方です)
どのような時に相手は怒るのか、これまで相談者が工夫したこと何か、相手が怒らない時はどんな時か、怒る時と怒っていない時で相談者自身はどんな違いがあるのか、
などを確認していきます。
相手が怒っている時と怒っていない時の、相談者自身の違いについて気づき(新たな視点)を得られると、相談者は自らのすべきことを見出されます。
うまくいけば怒る人とのコミュニケーションのパターンが変わり、お互いの関係性も、相手に対する意味づけも変わってきます。
(例:キレやすくて、キレたら手をつけられない人で、いつキレるか不安→実は自信がなくて責められたと感じるとキレるけど、安心させておけば大丈夫)
怒る人は、怒る必要がなくなります。
一回のカウンセリングでは答えにたどり着かないこともあります。
その際には、観察課題(怒る人を観察してもらい、怒る時・怒らない時の相談者自身の違いも意識する)を次回までの宿題にお願いすることが多いです。
次回カウンセリングの際に、相談者は怒る人を客観的に評価できるようになり、二人の悪循環が改善したり、自信を取り戻していたりします。
怒る人とその家族が来ている場合
怒る本人とその家族が来ている場合は、まずはお互いの思いを共有していただきます。
相手に対してどう思っているか、本当は自分はどうしたいか、相手にはどうしてほしいか…
うまく本音を表現できれば、相手に対する否定的な意味づけに変化が起きることで、
悪循環のコミュニケーションパターンを止めて、怒る頻度・程度が減ることもあります。
改善が難しい場合は、怒られる人だけが(一人または二人以上)で来ている場合
に記載したように、
コミュニケーションについて検討します。
怒る時とそうではない時の違いについて、気づき(これまでになかった新たな視点)を得られると、改善のために行うことが分かってきます。
ですが、どうしても瞬間的に必要以上に怒ってしまう、という方は珍しくありません。
このような場合は、2回目以降のカウンセリングで、上記の怒る人が一人で来ている場合、に記載している、
過去の未完了のことが影響している、と考えてのカウンセリングになることが多いです。
最後に
DVについて少し記載しましたが、
DVでは、相手の間違いを正してやっている、などのような考え方は特徴の一つです。
(ゲシュタルト療法の考え方ですが)DVではない怒りでも、
不安・自信のなさ・悲しみ・過去の傷つき、などは共通しています。
感情は層になっている、と仮定するとイメージしやすくなるのですが、
表面に現れている”怒り”の下には、”悲しみ”があったりします。
悲しみを悲しいと表現せずに(できずに)、怒りとして表出しているのです。
(感情が何層になっているかは、その方それぞれです。”悲しみ”の下に”恥”があったりもします)
怒る人の過去を扱うのか、
そうではなくて、パターンとなっているコミュニケーションの悪循環とお互いの関係性を扱うのかは、
来室された方の状況により変わります。
何を扱うにしても千葉カウンセリングルームとしては、
目の前の怒りにとらわれずに、なにか新たな気づきを得て各人が行うことを見出していただけるように努力していきます。